日常の中の創造

失敗した音楽ナイトで学んだ静寂の音

こんにちは、ハルトです。東京の片隅で「SEED SHIP」というワークシップ兼ラウンジを運営しています。普段はここで、アートやクリエイティビティを軸にしたイベントや集まりをゆるく開催しているのですが、先日、少しばかり「失敗」に終わったイベントがありました。その名も「音楽ナイト」。今回はその経験から得た気づき——特に「静寂の音」について——を綴ってみようと思います。

音楽ナイトの始まりと終わり

「音楽ナイト」は、SEED SHIPで初めての試みでした。コンセプトはシンプルで、誰かがギターを持ち込み、誰かが即興で歌い、誰かがビートを刻む——そんな自由な音楽の夜を作ろうとしたんです。事前に告知もして、数人の常連さんや新しい顔ぶれが集まってくれました。僕自身、ちょっとしたDJセットを用意して、場の空気を盛り上げようと意気込んでいました。

ところが、蓋を開けてみれば……シーンとした時間が多すぎた。参加者の一人がアコースティックギターで弾き語りを始めたものの、緊張からか途中で止まってしまい、その後は誰も手を挙げず。僕が流したBGMも、どこか場に馴染まず、むしろ気まずさを増幅させてしまった。結局、2時間ほどで「じゃあ、またね」と解散。残ったのは、片付けきれなかったスナックと、妙に響き続ける静寂でした。

失敗だった、とその夜は思いました。でも、次の日になって振り返ってみると、あの静寂の中に何か大事なものがあった気がしてきました。

静寂が教えてくれること

音楽は音でできている——当たり前ですよね。でも、その音を引き立てるのは、実は「静寂」なんじゃないか、と最近考えるようになりました。あの音楽ナイトで、誰も音を出さない時間が長く続いたとき、僕は焦って「何か埋めなきゃ」と思っていました。でも、もしあの場で無理に音を重ねず、静寂を受け入れていたらどうだっただろう?

ジョン・ケージという作曲家の有名な作品「4分33秒」を思い出します。この曲では、演奏者は4分33秒間、何も演奏しません。観客が聞くのは、会場の咳払いや椅子のきしみ、遠くの車の音——つまり「環境音」です。ケージはこれを通じて、「完全な静寂なんて存在しない」と伝えたかったらしい。僕らの音楽ナイトも、ある意味で「4分33秒」のような状況だったのかもしれません。誰も音を出さない中、SEED SHIPの木の床がきしむ音や、外の風のざわめきが聞こえてきてたんですよね。

あの夜、僕が「失敗」と感じたのは、期待していた「音楽」が鳴らなかったから。でも、静寂の中に別の「音」が確かにあった。それに気づけたのは、後になってからでした。

アートと「失敗」の距離

SEED SHIPを始めてから、アートやクリエイティビティって「完璧さ」とはあまり関係がないな、と感じることが増えました。アートシーンではよく、「作品が売れるか」「評価されるか」が話題に上ります。でも、商業的な成功を目指すなら、それはもうアートじゃなくて商品なんじゃないか、なんて少しひねくれた考えも浮かびます。

あの音楽ナイトだって、もし「成功」を目指してガチガチにプログラムを組んでいたら、もっとスムーズに進んだかもしれない。でも、そうしたらSEED SHIPらしい「自由さ」は失われていただろうし、静寂から気づきを得るチャンスもなかった。失敗って、実は自由な発想や偶然の気づきに繋がる入り口なのかもしれません。

哲学者のアラン・ワッツは、「人生はコントロールできないものを受け入れることから始まる」と言っていました。アートも同じで、思い通りにならない瞬間——失敗や静寂——を受け入れることで、初めて新しい何かが生まれるんじゃないか。そう考えると、あの音楽ナイトは「失敗」じゃなくて、「何か」の始まりだったのかもしれません。

静寂をデザインする

じゃあ、次に何かを企画するときは、静寂をどう活かそうか。そんなことを今、ぼんやり考えています。例えば、音楽ナイトをもう一度やってみるとしたら、最初から「音を出さない時間」を意図的に作ってみるのも面白いかも。参加者に「静寂の中で何が聞こえるか」をスケッチしてもらったり、感じたことを言葉にしてもらったり。そうやって、静寂自体をアートの素材にしてみたい。

SEED SHIPは、学校みたいな場所じゃないし、決まったルールもない。だからこそ、失敗も含めて、いろんなことが試せる場所でありたいんです。あの夜の静寂は、僕にとって新しい音の形を教えてくれた。それは、もしかしたら誰かが弾くギターの音よりも、ずっと深く響くものだったのかもしれません。

最後に

失敗した音楽ナイトから一週間以上経って、このブログを書いている今も、あの夜のことを鮮明に覚えています。気まずい空気、途切れたメロディ、そして静寂。あれは確かに「失敗」だったかもしれないけど、同時に、僕にとって大事な気づきをくれた時間でもありました。

クリエイティビティって、完璧な形を追い求めるよりも、むしろ不完全さや偶然の中に潜んでいるものを見つけることなのかもしれませんね。SEED SHIPに集まる人たちと一緒に、これからもそんな瞬間を探していけたらいいなと思っています。

皆さんは最近、どんな「静寂の音」を聞きましたか?
よかったら、コメントで教えてください。